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小池壮彦氏にお奨めの本を選んでもらいました。




殺人現場を歩く1・2
蜂巣敦 /山本真人
ミリオン出版
 本書で語られるのは、東京とその近郊で起きた殺人事件の話である。事件のセレクトにあたっては取材上の便宜も考慮されていると思うが、もちろん一貫したテーマがある。
 都市の風景は、もはや事件の意味を記憶させる動機を持たない。著者の言葉でいえば、「不毛が生じた部分を埋めるだけのモチペーションを持ち合わせていない」。
 そのことを強く感じさせる昨今の事件をセレクトし、著者は事件現場の風景を見る。そこは確かに人が人を殺した現場であるが、その事実は必ずしも現場の風景と折り合いがつかない。たとえばコンビニ店長が殺された東京駅は、事件の前も後も、単に人のごったがえす中継点にすぎない。著者はそのことを見届けて筆を置くのである。
 しかし、事件のリアルは風景にしかない。著者のその構え方は、取材者の宿命ともいえる。風景は往々にして何も語らない。だが取材者は現場の風景を見、痕跡を探し、そこに流れる空気を吸うことで事実を体感する。それしか仕方がないし、そう達観することで見えてくるものもある。
 事件の加害者の生い立ちを延々と読まされるノンフィクションには辟易している私にとって、この本は一服の清涼剤であった。事件書にめずらしくスタイリッシュな装丁で、その面からも引きつけられた。
(2003.12.31 written by 小池壮彦)

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